約1年半に渡った「ルイ・ヴィトン・アメリカズカップ・ワールドシリーズ」が先日の第9戦・福岡大会にて終了した。
SoftBank Team japanは福岡大会及びワールドシリーズ通算成績は5位となった。
満足のいく結果ではなかったものの、アジア初となるアメリカズカップのレースを日本で開催し、日本の皆さんの前でレースができたことは、チームにとって大きな成果であったと言えよう。
全ての関係者の方に、改めてお礼申し上げたい。
さて、これをもってアメリカズカップが終了し、自分は一度も試合に出ることもなくバミューダという夢の国での生活を終え、再び社畜としての新たな人生を一人寂しく歩んでいくのかというと、そんなことはない。少なくとも「アメリカズカップが終了した」という点においては。
「ややこしい」という声を聞くことが多いのだが、実は「ワールドシリーズ」は予選の前哨戦なのである。
・ワールドシリーズ(2015年7月-2016年11月)
全6チームによるフリートレース(全チームが同じレースで一斉にスタート)。全チームがAC45Fという同じデザインの艇を使う。
このワールドシリーズで1位のチームは次のクオリファイヤーズで2ポイント、2位のチームは1ポイントのアドバンテージを得る。
・クオリファイヤーズ(2017年5月)
全6チームによる総当たり戦が2回行なわれる。マッチレース(1対1のレース)。
勝てば1ポイント、負ければポイントなし。
前大会のチャンピオンで、今大会のディフェンダーである「Oracle Team USA」を除いたチャレンジャー5チームのうち、最下位1チームはここで脱落。
・プレーオフ(2017年6月)
クオリファイヤーズを勝ち抜いたチャレンジャー4チームによるトーナメント戦。マッチレースで5戦先勝。
勝ち上がったチャレンジャー1チームのみが、チャレンジャー代表となる。
・アメリカズカップ・マッチ(2017年6月)
チャレンジャー代表とディフェンダーとのマッチレース。
このレースこそが「アメリカズカップ」。7戦先勝。
勝ったチームがアメリカズカップを手に入れる。
さらに、艇の種類もいくつかあり、ワールドシリーズで使われた「AC45F」、今まさにバミューダで乗っている開発プラットフォーム「AC45S」、そして、クオリファイヤーズ以降で使われる「AC50」(仮称)の3つである。
AC50は基本的に各チームで同じデザインなのだが、チーム独自のデザインや操作システムが認められている部分があり、AC45Sを用いてその開発を進めているのである。
例えば、「フォイリング」(艇を海面から浮き上がらせる)に必要な水中翼がついた「ダガーボード」と呼ばれるパーツのデザインも、規格の範囲でチーム独自の開発が認められている。
【AC45F】
【AC45S】
少し見ただけでは、ほとんど違いは無いように感じられるかもしれないが、実は大きく異なっているのである。
艇上に取り付けられたカメラの映像を見ると、その違いがわかりやすいだろう。
【AC45F】
【AC45S】
AC45Sは大型のウインチが両側の船体に2つずつ設置されており、1つのウインチを2人で回す。ウインチはロープを引き込むだけでなく、艇の操作に用いられる油圧の補給にも用いられる。油圧のエネルギーを使うことで、AC45Fでは時間をかけてロープを引っ張らないといけなかった操作が、AC45Sではボタンを押すだけで操作可能になったり、より強力なエネルギーを用いたりすることができる。
油圧の補給はとても重要で、補給が追いつかないと以下の動画のように危険な事態も起こりうるのである。
動画内の解説によると、転覆しそうになったニュージーランドの艇は、ウイングセール(帆)のコントロールに必要な油圧エネルギーが足りなかったために、うまく操作できなかったという。
ちなみに、油圧補給のためにウインチを回し続けるという動作は、高い出力をキープするという点において、ローイングのエルゴで必要とされる体力に近いように感じる。実際、最近はニュージーランドの艇に当たり前のようにボート選手が乗っているし、自分のチームメイトの中にもボート未経験であるにもかかわらず、2,000mのエルゴで6'14がベストスコアだというメンバーもいる(そのメンバーも多少はエルゴでトレーニングをしてきたのだと思うが、ボート経験者の自分としては、ベストスコアで負けていて肩身が狭い、、、)。
さて、アメリカズカップはまだまだこれからが勝負であるため、今後もSoftBank Team Japanの活躍を期待していただきたい。
(後記)
書いた後で思い返すと、ちょうど去年の11月27日はクルー選考の初日。
冬場のトレーニングの励みになればと思い、軽い気持ちで受けた選考会だったのが、まさか今こうしてバミューダで生活しているとは。
思えば、学生時代に打ち込んだボート競技も、最初は「いつでも辞めていい」と言われて、その場のノリでボート部に入ったような気が。。。
少し先の未来。何に惹かれ、何をしているかはわからないものです。